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田舎ほど、“オモロい”ものはない!

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2023/12/28
高橋武男さんさん
(46)
兵庫県加東市
スタブロブックス株式会社 代表取締役

個人紹介

高橋武男(たかはしたけお)46歳。1977年、兵庫県加東市生まれ。大学卒業後、コピーライター、書籍編集者を経てフリーランスのブックライターに。2014年に加東市へUターン後、ライター活動をしながら2020年4月、地元を拠点にスタブロブックス株式会社を設立。社名の由来は、陸上競技の短距離選手が蹴り出すスターティングブロック。「挑戦者の後押しとなる存在に」との想いが込められている。

緑豊かな山と田んぼが一面に広がる景色の真ん中を、まっすぐに伸びる細く静かな田舎道。高橋武男さんは、今日もこの道から営業に向かい、陸上競技の練習にこの道から走り出す。のどかな田舎で取り組むクリエイティブな仕事には、地域おこしのヒントが詰まっていた。

「田舎もんを、なめんなよ」

高校生の頃から、生まれ育った加東市へUターンしようと決めていた。

「地元愛が強かったんだねと言われるんですが、実はちょっと違うんです。」と笑う高橋さん。当時、テレビで観たSOHO(*)という働き方に憧れたことがきっかけだった。

「アメリカで自宅をオフィスに、父親がかっこよく働いている。そんな働き方があるなら、将来、自分も目指したいと思ったんです。」

憧れをかなえるために、選んだ職業がライターだった。文章を書く仕事なら、パソコンとインターネットがあれば、どこででもできると考えたからだ。しかしその一方で、高橋さんにはもうひとつ、Uターンを志した理由があった。

「こんな田舎、なんにもないやんけ。」

高橋さんが通った地元の県立高校は、歴史ある陸上の強豪校。インターハイ出場を目指す生徒たちが兵庫県内の各地から集まってくる中、都市部から入学してきた同級生たちから、そうやって揶揄されることがあった。

また、社会人になり大阪や神戸で働いていた時も、「地元に帰ってライターの仕事を続けたい」と話す高橋さんだったが、業界の関係者からは「その田舎では無理やで」と理解されなかった。地方でクリエイティブな仕事はできないと決めつけられたように感じ、やはり我慢できない。

「田舎もんを、なめんなよ。」

ライフスタイルへの憧れと、「田舎もん」への反骨心。ふたつの想いをエネルギーに、高橋さんは生まれ故郷である加東市へ2014年Uターン。ライターとして、念願だったSOHOライフをスタートさせた。そして、すぐに大きな転機を迎えることになった。

*SOHO(ソーホー:Small Office Home Office):1970年代にアメリカで始まった、小さいオフィスや自宅兼オフィスで働くワークスタイル。

2014年、地元にUターンした頃の自宅からの風景
自宅兼事務所からは加東市の豊かな自然が見晴らせる

地方には、「宝物」が眠っていた!

書籍の原稿を著者に代わって書き上げるブックライティングの仕事に取り組み、フリーランスのブックライターとしてUターンした高橋さん。転機となったのは、地元の商工会が手掛ける仕事紹介サイトの制作で、近隣の企業を取材したことだった。その中のひとつが、「播州織(ばんしゅうおり)」と呼ばれる製織業に取り組む織物工場(こうば)だった。

播州織とは、西脇市や多可郡を中心に200年以上もの長きにわたり、地元の人たちに守り育てられてきた地場産業。取材を通じ、播州織が持つ地域資源としての魅力を初めて知ることになったのだ。

工場のドアを開けた瞬間、織機の音が全身を包み込む。「播州織の歴史と伝統の世界に足を踏み入れたようで、身が引き締まった。」と振り返る取材では、何千本もの細い糸を、一本一本並べたり、針の穴ほどの小さな穴に通したりする手仕事を目の当たりにし、精緻な作業の積み重ねから、一枚の生地が織り上がっていく様子に感動した。

しかし、最も高橋さんを驚かせたのは、そんな播州織が世界のハイブランドに採用され、セレブたちが身にまとうファッションになっていることだった。だが「生地」であるため、生産地も職人技も、地場産業としての歴史や伝統も世間に出ることはない。悔しい。もったいない。

「播州織のように、地方は地域資源という宝物の宝庫。全国に発信するための受け皿が必要だ。」この気づきをきっかけに、高橋さんはひとり出版社「スタブロブックス株式会社」を創業。取材から執筆、編集、制作、書店営業まで、すべての業務をひとりでこなすこと3年。6冊の本を出版し、今また新たな挑戦を始めようとしている。

取材で訪れた播州織の織物工場には、150年以上も織機の音が響いている
地方での新たなライフスタイルを提案する『ローカルクリエーター これからの地方をつくるのは「きみたち」だ』(スタブロブックス編著)

「地方じゃ無理」から「地方だからできる」へ

高橋さんの挑戦は、地元の人を巻き込んだ本づくり、名付けて『ジモトブックス』。特に一緒に取り組みたいのは、高校生たちだ。

「一般的な観光名所ではなく、高校生たちが考える地元の面白さをマニアックに語ってほしい。そんな話を一冊にまとめて全国の書店に並べ、地元に利益を引き込むところまで実現したいんです。」

まず加東市をモデルに全国の市町村へ広げ、各地の特色ある『ジモトブックス』を全国の書店に並べることが目標だ。

「都市部の出版社と同様に全国の書店に本を並べ、販売し、利益を生み出す仕組みを、地方でもつくれることを証明したい。」と話す高橋さん。その先で見据えているのは、都市部で成長した若者たちがそれぞれの地元へ還(かえ)り、好きな仕事で利益を生んで地元を元気にすることだ。

そんな高橋さんの中で地元とは、今どんな存在になっているのだろう。

『ジモトブックス』の本づくりに参加する地元の人と高校生たち

「何もない」とからかわれた田舎に、あったも

「地元とは、その地域の人に応援されながら、チャレンジできる場所。」と語る高橋さん。既存の仕事であっても「地方」と掛け合わせれば、新しい企画や商品になると言う。

例えば、スタブロブックスのようなひとり出版社は全国に増えているが、拠点を田舎に置く事例は少ない。そのため、「加東市にあることが面白い」と、全国の書店に知られる存在になってきた。

また、何かを極めようとする「マニアックな人」も、田舎にいるほど「オモロい」と話す高橋さん。地元には、ハンバーガー好きが高じて自ら協会まで立ち上げ、専門家として雑誌に掲載される後輩もいるそうだ。

「いずれも、地方だから目立つんです。フィールドが『田舎』であるほど、やっていることが面白くなる。それが、田舎の持つ力です。」

かつては、「こんな田舎、なんにもない」とからかった同級生たちを見返したい一心だった。しかし今、高橋さんは知っている。何もないからこそ、なんだって面白くできることを。田舎ほど“オモロい”ものはないことを。田舎には、無限の可能性があったのだ。

「UターンやIターン、Jターンなど、地方でチャレンジする人が増えてほしい。面白いことにチャレンジしている人がたくさんいるほど、地方が面白くなる。そんな人にスポットをあて、マニアックに紹介していきたい。」

「地域おこしは、人おこし。」高橋さんが編集・発行を手がけた書籍にあるフレーズだ。

「最後は、自分自身がマニアックな人になれればいいな。」

高橋さんは、ひそかにそう思っている。

過疎地域となった地元のまちで“米づくり”を通じた地域おこし活動に取り組む若者たちの地域発本『RICE IS COMEDY』(ONE SLASH著)を出版。
『RICE IS COMEDY』刊行フェアで書店に立ったメンバーと高橋さん

POWER WORD

主体性

Uターンした地元加東市で、一冊の雑誌を手にした高橋さんは、ある「違和感」を覚えた。その正体は、自ら出版社を立ち上げ、本づくりを行う中で明らかになっていった。高橋さんの違和感とは、何だったのだろうか?

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内橋麻衣子