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人が集い、つながり合える古民家カフェ
誰にもやさしい社会をお菓子でつむぎたい!

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2022/03/25
岩﨑朝美さん
(32)
兵庫県西脇市
つむぎ菓子店

個人紹介

岩﨑朝美(いわさきともみ)32才。平成元年、三木市生まれ。楽器演奏が趣味でオーケストラに所属する叔父の影響により、幼い頃から音楽に触れて育ち、クラリネット奏者としてオーケストラをはじめ様々な演奏活動に取り組んだ。大学では日本語音声学を研究しながら音楽活動を続けたが、卒業後の交通事故により音楽の道をあきらめ、好きだったお菓子づくりの道へ進もうと決心。令和元年9月、西脇市比延(ひえ)地区自治協議会が公募した古民家活用による地域活性化コンペでカフェ開業プランが採択され、令和2年10月、古民家を改装し「つむぎ菓子店」をオープン。音楽会など店で開く様々なイベントを通じ、老若男女が集う交流拠点に育てるべく活動を続けている。

「お菓子をつくることが好き。」「人と話をすることも好き。」「お菓子を食べながら音楽を聴くのは最高の幸せ。」
築100年を過ぎた古民家に、明るい声が響きます。三木市から移住し、無農薬の自然素材を中心とした手づくり焼き菓子のカフェを開いた岩﨑朝美さん。古くからのコミュニティへ一人で移り住み、初めて挑戦する店舗経営。コロナ禍により思うように改装工事が進まない中、バリアフリーへの想いを貫いた店づくり。どんな状況でも楽しむことを忘れずに、オープンからの日々を過ごしています。お菓子と音楽、様々なイベントから生まれる「つながり」や、お店を通じてつむぎたい夢についてお話しいただきました。

「人との交流が好きな私らしく生きよう」

オーケストラやオペラの鑑賞に心を躍らせた幼い頃、憧れていたのはクラリネット奏者でした。小学5年生でレッスンを始め、プロの演奏者を目指してきた岩﨑さんでしたが、オーストリアの音楽大学へ留学を準備していたある日、交通事故に遭遇。2年間におよぶ療養生活を送ることになってしまいました。
「思うように体が動かず、積み上げてきたものがゼロになってしまったことで、音楽に向き合う気持ちが切れてしまいました。クラリネットを吹くこともやめてしまったんです。」
回復後、社会復帰を果たした岩﨑さん。
「せっかく生かされた人生を、もっと自分らしく生きたい」と思い始めたとき、頭に浮かんだのは「音楽ホールのあるカフェを開きたい」という子どもの頃からの夢でした。

「車いす生活だった療養中は段差などで移動の自由が利かず、好きだった古民家カフェ巡りもできませんでした。車いすから離れても、足は遠のいたままだったんです。行きたいのに行けないなら、行ける場所を自分でつくればいいんだと思いました。」
「店はバリアフリーにしよう。」「つくることが大好きなお菓子を出そう。」
心が決まって準備を始め、2年が過ぎた令和2年9月、西脇市比延地区自治協議会による古民家活用コンペティションの新聞記事を発見した岩﨑さんは、現地での説明会に参加しました。
「目にした瞬間『ここだ!』と思いました。土間にスロープを設置すれば、車いすのまま店内へ案内できます。介護車でも来店できる広い駐車場もありました。譲れない条件が揃っていたんです。」
説明会では近所の住民たちから「何をしてくれるの?」「来てくれたら嬉しい」と声をかけられ、「一緒にまちを元気づけてほしいという皆さんの想いが伝わってきた。」と話します。最終審査には地元の住民たちも参加。10組が応募した中から見事、岩崎さんのプランが採用されたのです。

令和2年10月12日、つむぎ菓子店がオープン。「手土産を買える場所ができてうれしい」と喜ぶ住民や、店への散歩が日課になった高齢者など、岩﨑さんの店は地域にとって必要な場所になっていきました。手づくりのお弁当を差し入れてくれる人や、採れたての野菜をそっと玄関先に届けてくれる人もいると言います。
地元の人々に温かく見守られながら岩﨑さんがつくるのは、季節感と食材を大切にした焼き菓子です。

所属していたオーケストラの定期演奏会でクラリネットを演奏する岩﨑さん(右)

古民家活用コンペティションの現地での説明会

古民家活用コンペティションの現地での説明会

心のバリアフリーを生む、自然素材のお菓子とおもてなし

「兼業農家の我が家では、お米も野菜も無農薬で育てています。私自身がそんな食材で育っているので、お出しするお菓子や飲み物もできる限り無農薬で育った地元の材料を使い、季節を感じていただけるものを心がけています。」
例えばイチゴは、岩﨑さんの出身地である三木市吉川(よかわ)や西脇市内の農園と契約。地元の高齢者が趣味で育てているブルーベリーや柚子をわけてもらったり、さつまいもや黒豆、小豆も近隣の生産者から仕入れます。

「移住後に知り合った方から『おいしいよ』と教えていただいた農園へおじゃまして、『使わせてください』とお願いしたり、来店されたお客様が無農薬で野菜を育てていると伺えば、『うちにも届けてください』って話をしたり。私からどんどん声をおかけしています。開業前に受講した西脇市の創業塾で、酒米の山田錦を無農薬で育てていらっしゃる方と知り合ったのですが、その米粉を使った商品開発に一緒に取り組んでいるところです。」
店に並ぶお菓子はおよそ20種類。休日になると大阪、神戸、姫路、加古川などからも、親子連れから年配の方まで様々なお客様がやってきます。

「ぼーっとしたり、本を読んだり、編み物をしたり、仕事をしたり。『ここなら、自分の時間をつくることができる』と一人で来られる男性もいらっしゃいます。時間を忘れてゆっくり過ごしていただきたくて、時計も置いていないんです。」
中には、お弁当を持参して一日中過ごす人や、庭先でレジャーシートを広げる人もいるそうです。

多くのお客様を迎える中で、特に岩﨑さんがうれしかったのは、電動車いすや介護ベッドを利用する障害者施設の人たちも来店してくれたことでした。
「私が車いすを利用していた頃は、人の目が気になってコンビニへ行くのも二の足を踏んでいました。だからこの店は、そんな視線を感じない場所にしたかったんです。おかげさまで、お店に来てくださるお客様はやさしい人ばかり。見ず知らずの人にも『手伝いましょうか』と声をかけてくださることがありがたいです。」
「人が集まって交流し、つながれる場をつくる。」
掲げた夢の実現を目指し、店に集う人たちと共に温かな空間をつくり続ける岩﨑さん。数々の出会いの中でも「店にとって転機だった」と振り返るのは、オープン初日のある男性との出会いでした。

つむぎ菓子店オープン初日の岩﨑さん

つむぎ菓子店オープン初日の岩﨑さん

山田錦を無農薬で育てている農家の人たち

山田錦を無農薬で育てている農家の人たち

人とつながり人をつなぐ、交流拠点に育てるために

「このお店で、音楽鑑賞と読み聞かせのイベントを開かせていただけませんか。」
岩﨑さんに声をかけたのは、西脇市の図書館で、おはなし会やイベントのサポート、図書の修理などを行うボランティアグループの男性メンバーでした。「ぜひ開催しましょう!」と二つ返事で答えた岩﨑さん。翌月には記念すべき第1回目のバイオリンコンサートと読み聞かせの会『おはなしつむぎ』を開催しました。

「このボランティアの方にバイオリニストさんを紹介いただいたんですが、その後も紹介の輪や、つながりが次々に拡がっていきました。イベントを開くきっかけも、様々な人とのご縁も、彼との出会いで生まれたんです。」
このイベントをきっかけに誕生したのが「チームつむぎ」です。バイオリニストやチェリスト、声楽家から、コーヒー焙煎士、読み聞かせボランティア、保育士、小学校教諭まで、互いに紹介しあって集まったメンバー14人が、各々の取り組みたいことを提案しあい、店を会場に様々なイベントを開催。滋賀県の寺院と縁があり、令和4年6月には音楽鑑賞と読み聞かせのイベントを開くことも決まっています。

1回目のイベントを皮切りに、様々な取組に挑戦してきた岩﨑さん。例えば令和3年9月には、地場産業である播州織を広める活動に取り組む女性たちとコラボレーション。テーブルクロスやクッションなど播州織を使った雑貨をあしらった店内で、アフタヌーンティを楽しむイベントを開催し、多くの来店者をもてなしました。また同年12月には、地元住民と来町者との交流機会をつくるため、地元在住のエコクラフト講師を招き、バッグづくりのワークショップを開催。今後も地元で特技を持った人を招き、様々な集いを開きたいと話します。

さらに、店への社会科見学をきっかけに地元の小学生たちと交流が生まれ、令和4年1月には店で開いた落語会へ子どもたちを招待しました。
「お客様にご紹介いただいた落語家さんをお招きし、子どもたちのための演目を披露していただきました。本物の芸術に触れ交流できれば、きっといい経験になると思ったんです。いつか子どもたちのためにプロのオーケストラによる演奏会を開きたい」と岩崎さん。

「奏者の方々と交流ができれば、つながりに発展して小学校での演奏会が実現するかもしれません。そんなつながりの拠点をつくっていきたいと思っているんです。子どもの頃、JICAの研修で日本へ来ている海外の人々をホームステイ先として受け入れたり、演奏会や人形劇、紙芝居などを様々な施設で披露するボランティア活動の機会が多かったんです。いろいろな大人とのつながりがあったから、今の私があります。幼い頃に影響を受けたものは、自分の財産として残るはず。地域の小学生のために、地域外の大人と関わる機会をつくりたい。芸術や文化を身近なものとして発信することで、受け取った子どもたちが大人になる過程で、何かしらの糧にしてくれたらうれしいです。」
まだまだやりたいことがいっぱいあると笑う岩﨑さん。その原動力になっているのは「みんなのために」という気持ちでした。

記念すべき第1回目のイベント、西脇市図書館サポート隊TenTous(テントウズ)が主催した生演奏と読み聞かせの会『おはなしつむぎ』

記念すべき第1回目のイベント、西脇市図書館サポート隊TenTous(テントウズ)が主催した生演奏と読み聞かせの会『おはなしつむぎ』

播州織を広める活動をしている『@(アット)』とのコラボレーションイベントで、播州織のテーブルクロスなどをあしらった店内

播州織を広める活動をしている『@(アット)』とのコラボレーションイベントで、播州織のテーブルクロスなどをあしらった店内

すべての人が楽しく生きやすい社会を目指して

「店を開こうと決めてから、もらいすぎだと思うくらい、いろいろな人との関わりや、お金で買えないたくさんのつながりをいただいてきました。今度は私が差し出す番。いただいてきたすべてのものを、他の人に受け取ってほしい。」
そう語る岩﨑さんの想いの背景には、子どもの頃から見続けた祖父や父の姿がありました。

「看護師だった祖父は、心が疲れた患者さんのために畑をつくり、一緒に農作業をしていました。採れた野菜は一緒に食べたり近所に配り歩いたり、人のために動く人でした。同じように父も損得を考えず周囲のために働く人。そんな祖父や父を見ていると、私も二人のような大人になりたい、人のために無条件で動ける人になりたいと思ったんです。今それができる環境に自分がいられることや、思いに共感してくれる方がたくさんいらっしゃることが本当にうれしくて、毎日が楽しいです。」

想いが届いたと実感できたのは「自分の落ち着ける場所をもらいました」と言うお客様と出会えたことでした。職場での人間関係に疲れ、家にいても気持ちがふさぎ込んでしまう人たちが、「ちょっとここに逃げてきました。」と、朝から一日自由に過ごせる場所になっていることがうれしいと言います。
「ふらっときて、居心地のいい空間で居心地いい人たちに囲まれる。つながった人とまた会って話そう、ここで一緒に何かに挑戦してみよう。そんな風に思ってもらえる空間にしたいんです。」
その先で岩﨑さんが目指すのは、すべての人にやさしい社会です。

「例えば、足の自由が利かなかったかつての私のような人も、ごく当たり前に過ごせる雰囲気づくりを心がけています。そんな雰囲気を心地よいと感じ、同じように行動する人が少しずつ増えていけば、さらに楽しく生きやすい社会になると思っているんです。」
まもなく岩﨑さんは、クラリネットの演奏を再開します。
「演奏家さんのサポートに徹するうち、私ももう一度やってみようと思えました。」
音楽との絆を再びつむいでくれたやさしいお菓子とともに、岩﨑さんの新たな物語が始まります。

お店で開催した落語会へ子どもたちを招待

お店で開催した落語会へ子どもたちを招待

地元在住のエコクラフト講師を招き、開催したエコクラフトのワークショップ

(文/内橋麻衣子 動画/三好幸一 )

POWER WORD

つむぐ

つむぎ菓子店の名前の由来にもなっている言葉「つむぐ」。幼い頃からいろいろな人と出会い、その出会いがつながって今の自分があると言います。「お菓子は、人と人をつむぐためのツール」と語る岩﨑さんが、お店を通じて伝えたい想いとは? 「つむぐ」の言葉に込めた願いとは? 

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