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競わないランニング文化をつくりたい

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2023/02/22
志水直樹さん
(35)
兵庫県西宮市
GPSランナー

個人紹介

志水直樹(しみずなおき)35歳。昭和62年生まれ。建設コンサルタントと小学校教師を経て、平成31年4月から世界初の職業、走った軌跡で絵を描く『GPSランナー』を名乗り、プロとして活動。令和3年11月テレビ番組『世界の果てまでイッテQ!』に出演。アジア競技大会2026(アジアオリンピック)の公式イベント「GPS RUN ART」のコーディネーターや、ジャニーズの番組のコンテンツ監修などを務める。「“競わない”ランニング文化をつくる」ことをミッションに掲げ、国内外で「RUN FOR SMILE」をモットーに活動を展開。世界10か国を駆け巡り、描いた作品数は約1,200、描いた総距離はおよそ10,700km。

あることがきっかけでGPSランナーを名乗り、様々なまちを走り回っている志水直樹さん。各地でGPSランやGPSウォーク、GPSプロギング(ジョギングしながらのゴミ拾い)などのイベントを開催されています。果たして、走った軌跡がアートになるとはどういうことでしょうか? 西宮市内でお話を伺いました。

教師からGPSランナーに転職した理由

西宮市生まれの志水さんは、教育学の研究者である父を持ち、イギリスや神奈川県、岐阜県で高校卒業までを過ごしたそうです。

「大学時代の4年間は兵庫県で過ごしました。学生の頃に留学生のお世話をしていた関係で、バックパッカーとして海外に行きたいとずっと思っていて、世界中を見て回る中で、日本のインフラ技術がすごいと感じて卒業後は測量や航空写真を取り扱う建設コンサルタント会社に入りました。」

就職後は、3年以内に退職し、小学校教師になるための資格を取ると、最初から決めていたのだとか。

「社会人経験がある人が教師になる方が、自分も納得できるし、子どもたちにとっても親御さんにとっても良い教師になれるのではないか、という思いがありました。」

そして、今のGPSランナーとしての活動につながるのが、志水さんの自宅近くの西宮神社で毎年1月10日に開催される「福男選び(*)」の神事に参加したことです。

*福男選び:毎年1月10日(令和3年、令和4年は中止)の朝、西宮神社で商売繁盛を祈願する「十日えびす」にあわせて開催される神事。境内を駆け抜けて本殿にいち早く到達した人をその年の「福男」として認定。

「毎年参加しているんですが、平成28年はくじを引くために5時間ぐらい長蛇の列に並んでいました。待っている間に当たったら最短距離で走りたいと思ってGoogleマップをなんとなく見ていると、神社の周りの道をつなぐと西という字が描けることに気づき、「福男」を走るよりも、字を描くために走った方が面白いと直感的に感じました。というのも、当時は特別支援学級の担任をしていて、車椅子利用者の児童は走れなくても、地図に字を描くことだったら一緒にできるスポーツになるんじゃないか、と思ったんです。」

体力づくりのために使っていたアディダスのランニングアプリを使用

翌月にバレンタインデーがあるので、それにあわせて西宮LOVEと描いた作品をFacebookに投稿したところ、友達の反応が大きかったのだとか。「面白い!」「どうやってるの?」「自分も走って地図を描いてみたい」などの反応があり、「これなら教育や福祉の現場でスポーツの楽しさが伝えられる!」と感じたといいます。

その後、東日本大震災から5年目の平成28年8月に、ボランティアで何度も訪れた被災地の現状を全国にも知ってもらうためにGPSランを開始。テントを担ぎ、釜石市から仙台市までの海岸線沿い200kmを出会った人たちに当時の話を聞いたり、泊めてもらったりしながら走り抜けたのだとか。

チャリティーマラソンで気仙沼市役所を訪問し、GPSランを通した復興支援について意見を交わした

「当時、東北でよく聞いたのは、世界の人、特に台湾の人に感謝しなければ、という言葉でした。そのことがずっと頭に残っており、平成30年2月の台湾・花蓮市での大震災を受けて、その年のゴールデンウィークに現地に応援メッセージを描きに行きました。」

台湾・花蓮市で「花蓮加油(がんばれ!)」と応援メッセージを描いた

不安98%でも、子どもたちのためになるという確信があった

平成30年3月には小学校を退職。

「教師は僕にとって天職だと思っています。ただ、教師を続けていると外に飛び出そうと思ったときに飛び出せない。自分の特性的にGPSランナーとして活動する方が子どもたちのために還元できるものが大きい予感がしましたし、講演会などで小学校に行けば教師に近いこともできるのではと思いました。将来的に長い目で見ても、教え子たちを含む次世代のためになるというのは、東北の復興支援や台湾での実体験でも感じていました。」

もちろんGPSランナーを名乗る人は世界初ですが、不安はなかったのでしょうか?

「不安しかなかったです。だけど、人のためになるのであれば絶対そのうち仕事にもなるはずだし、やってみないとわからないので。不安は98%ぐらいあり、いろいろ試行錯誤する日々でした。正直どうマネタイズできるかも考えずに辞めた部分があったので、考えたことや依頼されたことはほとんど全部試してみました。」

小学校を退職した直後、幸運にもスポーツメーカー「アディダス」の公式ランニングアプリの会社から声がかかり、Runtastic Japan Ambassadorに選ばれ、就任後、世界に22人しかいないワールドアンバサダーの日本代表として東北やヨーロッパでのプロモーションや会議に参加したそうです。

「世界各国のアンバサダーと交流する機会があり、社会貢献とスポーツをつないで活動している人たちに出会い、刺激を受けました。」

志水さんの活動は大きくわけて GPSラン、GPSウォーク、GPSプロギング、オンラインイベントの4つです。それらを組み合わせて企業向けの講演会や、テレビ番組のコンテンツの監修、商店街を核としたスポーツとアートの力によるまちの活性化をコーディネートするなど幅広く取り組んでいます。

「声をかけてくださる方はウォーキングやランニングなど体を動かすことが好きな方が多くて、直近で言えば、大阪環状線の京橋駅近くの商店街「京橋中央商店街」の会長さんから連絡いただいて、自分の好きなランニングと商店街をかけあわせて地域活性化をしたいとご依頼をいただきました。」

大阪・京橋中央商店街、新京橋商店街主催のGPSラン&プロギング

イベントでは走る前に講習会を行い、地図にイラストを描くところから始まります。

「自分のつくった料理がおいしく感じるのと同様に、自分がつくったマップはワクワク感があり、歩いてみたくなります。」

商店街をスタートにした地図を元に運動して戻ってくるので「何か食べて帰ろう」「お店に足を運んでみよう」という動きが生まれるようで、地域を盛り上げる企画との相性が良さそうです。

「地図上の地域に住んでいる人も『50年住んでいるけれど、この道を歩いたのは初めてです。』と喜んでもらうこともあります。エンターテイメント性があれば、その地域の人だけじゃなくて、あちこちからいろんな人が来てくれて、その人がまた宣伝隊長になってくれて、SNSや口コミで広げてくれる効果があります。」

「昔ここを歩いた学生時代は」と、記憶を思い出すスイッチがわりになることもあるのだとか。

プロギングとはスウェーデン語の「拾う」という言葉とジョギングのギングを重ねた造語で、SDGsの浸透もあり、少しずつ広がっているスポーツだといいます

「観光地などの有名な名所ばかりを巡るのではなくて、その場所が持っている魅力的な路地裏を歩いたりする方が新しい発見があります。GPSウォークはふだん散歩しているのと変わりがなく、いつでもスマホ1台があれば気軽にできるのが特徴です。」

インタビューを行った令和4年12月直近では、宝塚市や、宮城県、福岡県宗像市からの依頼でゴミ拾いイベントを開催するなど、西宮市にいる時間が少なかったといいます。ただ、順風満帆にみえて最初の頃は大変だったのだとか。

「令和元年ごろはイベントをやろうと思っても人が集まりませんでした。GPSランをやろうと言っても、そもそもGPSランが何かわからないので1から10まで説明が必要でした。だから最初は無料で開催して、その代わりに『できればSNSで発信を手伝ってください』と参加者に伝えて、初期投資じゃないですが、自分の概念を広げてくれる仲間づくりを頑張りました。2年ぐらいは本当に収入がなかったです。」

主な活動の一つのオンラインイベントも基本的に景品などを含めて自腹開催。コロナ禍でみんなで集まってのイベントの開催中止が相次ぎ、個人的にGPSランを楽しんだ参加者同士がオンラインで作品を紹介し交流し合える仕組みをつくった。写真の「秋の紅葉」は参加者の作品

教師を辞めた後は飲食バイトを3つ掛け持ちしていたといいます。その後、バラエティ番組や関西のローカル番組などで取り上げられる機会が増えて、少しずつ認知度があがってきたと実感しているそうです。

全世代を巻き込むために楽しい体験をつくる

人気番組「世界の果てまでイッテQ!」やジャニーズの番組に出演を果たすなど、どんどん面白い企画に引っ張りだこの志水さん。いったいどんな準備をしてこられたのでしょうか?

「企画書などの準備はほぼゼロです。メディアに出演しているのを見て声をかけてくださったり、僕自身が日本全国を旅しながらGPSアートの作品づくりをしているので、そこで出会った自治体の方や地域にお住まいの方から声をかけてもらって、地域の悩みや課題を聞いて、『それならこんな感じで、みんなで楽しく体を動かしながら解決するのはどうですか?』と提案したら、どんどん決まっていくというのが多いです。」

どんどん声をかけてもらうために、たくさんの人を巻き込むコツはどんなことなのでしょうか?

「やっぱりみんなが口コミで発信してくれる条件は、楽しかったかどうかです。子どもだけのイベントやシニアだけのツアーなど世代を区切ったものはたくさんありますが、0歳から80歳まで一緒に参加するイベントはなかなかないので、全員が楽しいと思える企画をつくるのが僕の仕事です。」

全員を楽しませるために、志水さんは伝え方を工夫しているといいます。

教師時代に特別支援学級を担当した経験が、引率の際の安全確認などの技術に役立っているといいます

「例えば、子どもたちはゴミを拾ったら喜ぶし、ゴミ袋をシニア層に持ってもらうようにすると、子どもたちと関わりが生まれるのでシニア層もうれしい。ゴミを袋に入れるときに一言何か言葉を添えるルールにしていて、『ありがとう』と言ったりするだけで双方が楽しくなります。」

SDGsや環境学習などでも広く言えることで、子どもたちにとってはやはり褒めてもらえる仕組みをつくることが大事だと強調します。

「自分も様々なゴミ拾いイベントに参加していましたが、ひとりひとりゴミ袋を持つシステムはもったいないと思っています。ゴミを拾って入れてと、黙々と集中して作業する時間も大切ですが、会話がないとあまり楽しくないんですね。楽しくないと『またしたい!』とはなりにくい。大人も子どもも交流が生まれるような演出が大事です。」

交流することで全世代が楽しいと思うイベントに

インクルーシブスポーツとして広めていきたい

近い将来、スマートウォッチやスマートグラスの登場で、歩き方や観光の仕方が変わっていくだろうと志水さんは考えます。

「Googleマップのように最短距離で目的地を知らせてくれるアプリもいいですが、車椅子利用者が一番困るのが間違いなく段差なので、イベント中に歩いていたら勝手に段差情報が集まるアプリとか、何か楽しいことで社会課題を解決したり、歩くモチベーションがあがったりする仕組みをつくりたいです。」

志水さんは人目をひきやすいGPSランナーを名乗っているものの、肩書きに走る意味をもたせなくてもいいかもしれないといいます。

「活動の中ではたぶんウォーキングの方が喜んでくれる人が多いし、ゴミ拾いを乗せることで世の中が良くなるし。ただGPSランナーしています、と言った方が『なんで?』と興味をもってもらえるのでそう名乗っています。」

まずはインクルーシブスポーツの楽しさを体感してもらうことで、活動を広げていきたいと志水さんは考えています。

大阪府池田市の健康推進事業『イケダの地上絵まち歩き講座』でスマホを使ったウォーキングの講座を行なった

POWER WORD

軌跡で奇跡を起こす

たったひとりでGPSランナーを始めた志水さん。地道ながら楽しそうなGPSランなどの活動を続けることで興味を持った人が参加、応援してくれるようになり、アディダスなど世界的なグループに声をかけられて海外で活動をする機会が生まれました。そして、地域の社会課題に応えていくうちに多くの人を笑顔にしています。志水さんが活動の中で伝えたい思いは何なのでしょうか?

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狩野哲也