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移住者と「丹波暮らし」の楽しさをつなぎ
住み継がれるまちをつくりたい!

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2022/10/25
中川ミミさん
(41)
兵庫県丹波市
一般社団法人Be

個人紹介

中川ミミ(なかがわみみ)41歳。昭和56年、エチオピア生まれ、丹波市青垣町育ち。アメリカの大学を卒業後、住まいを通じて貧困撲滅や紛争・災害復興に取り組むNGOに参加。平成20年、丹波市にアメリカからUターン、平成21年、地域おこし協力隊として「空き家バンク」設立に携わり、卒業までの3年間、丹波市の移住定住相談窓口で活動。平成30年4月、一般社団法人Be(ビー)を設立し、丹波市への移住定住相談のためのポータルサイト「たんば“移充”テラス」の運営や交流イベントの開催などにより、移住定住の促進と空き家を活用した地域づくりなどを行っている。

子どもや孫たちが、自分の生まれたまちで暮らし続ける選択肢を持てなくなるかもしれない――。およそ40年後、丹波市の人口が半減する予想を示した「丹波市人口ビジョン(*)」を目にし、衝撃を受けた中川ミミさん。ふるさとである丹波市のために、何をしておくべきかを考えた時、たどり着いた一つの答えが移住の促進でした。Uターン移住者としての自らの立場や視点を活かした移住定住相談業務に取り組み、令和3年度には163組の移住者を迎え、4,631件の相談を受ける事業に成長。丹波のまちや歴史を守り続けてきた住民と新たなアイデアに満ちた移住者との、出会いから生まれる相乗効果で「住み継がれるまちづくり」をめざす中川さんにお話を伺いました。

*丹波市人口ビジョン:丹波市の人口動態を分析・推計することで、人口に関する市民意識を把握・共有し、今後目指すべき将来の人口のあり様(目標人口、人口の年齢構成、人口推移など)を示すもの。

NGOで学んだ、まちづくりの起点は「住まい

海の向こうには、丹波で見えている以外の世界があることを、幼い頃から意識していたと言う中川さん。大学を卒業後、憧れていた国際協力の仕事をしようと就職したのは、住まいの問題に取り組むNGOでした。
「実は、どんな活動をしているのかよく知らないまま面接を受けたので、住宅問題に関わるようになったのは本当に偶然だったんです。」
そのNGOで中川さんは、紛争や災害の跡地などで、住宅の修繕・建設を通して生活環境を改善し、まちづくりを支援する活動に取り組みました。その中で、人や地域が貧困に陥る背景には、一つの課題が新たな課題につながる悪循環があること。その悪循環を断ち切らない限り、解決できないたくさんの問題があることを、目の当たりにしたのです。
「人が人らしく暮らせる住まいが手に入れば、働きに行こう、子どもを学校に行かせようと、前に進むためのステップが生まれます。NGOでの活動を通じ、悪循環を断ち切る方法の一つとして住まいが有効なのだと理解できました。まちづくりでは、住まいを起点にすることにこだわるべきだと思ったんです。」

そしてもう一つNGOで学んだことは、組織や団体が一つの分野に特化する重要性でした。例えば、紛争の跡地で、医療支援や食料支援、子どもたちへの教育など、求められる支援が山積している中、中川さんが所属していたNGOは、住宅支援からまちづくりを行うことだけに取り組み、それ以外の活動は他の団体に任せるというスタンスでした。
「何千世帯が求める声に応えようとすると、本来するべきことが疎かになってしまいます。特化することは理にかなっていて、重要だと思いました。一人ひとりがそれぞれの役割を持って存在している地域においては、自分の役割を早く見極めることが大切です。まちづくりにも様々なものが複合的に関わり合っていますが、空き家の活用や住まいに関わることにだけ視点を置いて活動できるようになったのは、このNGOで働いていた経験があるからです。」 海外を中心に支援活動に取り組んできた中川さんが、丹波市にUターンするきっかけになったのは、平成23年3月に起こった東日本大震災でした。

住まいの問題に取り組むNGOでの活動
キルギスの建築現場で地元大工、ボランティアとともに
タイでは洪水被災者の自宅再建を支援した

目を向けるべきは、ふるさと丹波だった!

東日本大震災の復興支援のため、初めて日本で活動に取り組むことになった中川さん。そこで目にしたのは、支援を受ける人もボランティア活動に加わり、一緒にレンガを運んだり、食事の用意や清掃をするなど、それぞれにできる役割を持つことで、自立してゆく人々の様子でした。
「日本でも災害が起これば、住まいを無くして窮地に立たされる人がいることを改めて実感しました。そして、新たな住まいを見つけた人が、再び自分の力で立ち上がっていく姿を見て、住まいとまちづくりの支援が日本でも通用し、自分のスキルと経験を活かせることに気づいたんです。」と、国内に目を向け始めた中川さん。地元の丹波に足を運んだ時、空き家問題とまちづくり活動に取り組む同年代の人たちがいることを知り、「なぜ自分は、外の地域ばかりを見ていたんだろう。」と思ったと言います。

ちょうどその頃、空き家バンクを設立する人材を丹波市が求めていることを知り、すぐに応募。住まいとまちづくりに関わる地域おこし協力隊として、丹波市へUターンすることを決めたのです。
1年目は、空き家バンクの設立に奔走。その後、仕事情報サイトの運営や移住者の交流イベントの開催、大阪・東京での移住フェアへの出展や雑誌社・新聞社への情報提供といった広報活動など、それまでばらばらだった丹波市の移住定住相談窓口業務を3年かけて一元化。地域おこし協力隊の卒業と同時に、平成30年4月一般社団法人Beを設立し、丹波市の移住定住相談窓口「たんば“移充”テラス」の運営や、空き家を活用した地域づくりを行っています。
「空き家バンクは、空き家を地域の資源としてとらえ、起業したい人に移住していただき活用しようという趣旨で設立されました。空き家を売りたい、貸したいという所有者さんや、地域に空き家があって困っているという自治会や自治協議会、空き家を買いたい、住みたい、活用したいという移住希望者など、様々な方からの相談があります。」 中川さんはそうした相談業務を、地域資源とそれらを探す人との「引き合わせ役」だと言います。

地域おこし協力隊として空き家所有者に丁寧なヒアリングを行う中川さん
「たんば“移充”テラス」メンバーのみなさん

移住者としての暮らしを楽しむことが、私の役割

「移住したい人は、空気がおいしい、自然が近い、水がきれいといった環境面だけを希望しているのではありません。暮らしたいイメージや出会った人、その場所でなければ感じられない雰囲気も含め、地域が持つ文化も選ぶ理由にされます。その人たちにとって必要な情報を、どんどん出してあげることが私たちの役割です。」
例えば、神戸市でアロマとリラクゼーションのサロンを営んでいるご夫婦が、ゆったりした環境の中で2拠点目のリラックス空間をつくりたいと相談にやって来られたことがありました。中川さんは、漢方の里として有名な丹波市山南町の街道沿いにあった古民家を紹介。その古民家で、ご夫婦自らも漢方で使う薬草を育てながら、サロン経営に取り組んでおられます。
他にも、丹波市の伝統的工芸品「丹波布(*)」の伝習生になるため、神戸から一人で移住してきた女性や、「パラグライダーを飛べる地域だからやって来た。」というBeのスタッフなど、「この地域だから選んだ。」という移住者たちがたくさんいます。

そうした移住相談では、「希望する暮らし方をできるだけ丁寧に聞き出し、理想のライフスタイルを具体的にイメージしてもらうことを大切にしている。」と言う中川さん。
「ライフスタイルのキーワードが見つかれば、希望する暮らしのヒントにつながる先輩移住者を引き合わせることもあります。私たちと話したり、先輩の様子を見ることで、こういう暮らしがしたかったと気づかれることが多いようです。私たちは、通訳のようなつなぎ役だと思っています。」
Beのスタッフは全員が、丹波での移住暮らし真っ最中のUターン、Iターン。自らも移住者である視点や経験が、日々の活動に活かされています。
「この移住定住相談業務をやっていてよかったと思うのは、生活にも子育てにも事業にも、移住者という立場で試行錯誤している毎日が、楽しいと思えること。移住経験や空き家を活用することの価値を信じられないと、このまちを紹介できないので、イベントへ出かけたり移住者としての暮らしを私たち自身が楽しんでいます。移住後の暮らしを自分が妥協したら、次の日からこの仕事がウソになってしまいます。自分に正直に暮らせていることがうれしいんです。人生の中の今の時間は、ここにいてこの仕事をしておくべきだと思えています。」
自分の役割を果たせていることが頑張る原動力だと言う中川さんには、思い描くまちづくりのゴールがあります。

*丹波布(たんばぬの):兵庫県伝統的工芸品指定の丹波市青垣地域に伝承される織物、国指定選択無形文化財。地元有志により昭和初期に復興し、地元保存会が発足した。丹波布伝承館において2年間で伝習生が伝統技術を習得。同館は、技術の保存と後継者の育成を担っている。

リノベーションを行った古民家オフィス「旧西山邸」は土曜・祝日の相談窓口となっている
丹波に移住してきた人たちが一斉に集う移住者交流会

地域の人との対話から、移住が生まれるまちをめざしたい

中川さんのゴールとは、移住定住促進を事業にしなくても、自然に移住者が生まれることです。
「地域の住民みんなが、移住相談員になれたらいい。移住したい人と出会った時、私たちに代わって地域の人たちが対応できると、それはもはや相談ではなく『対話』です。移住定住を促進しなくても、自然な流れでこのまちに惹かれ、住んでもらえるのが理想です。」
既に中川さんの周辺には、移住定住促進に取り組もうと法人を立ち上げたグループや、自分の店舗に移住相談窓口を設けた移住起業家たちもいると言います。

そうした目標に少しでも近づくため、中川さんが取り組みたいことは、イベントやツアーを通じ、地域に触れるための体験を工夫し増やすこと。それを中川さんは「関わり方のデザイン」と呼びます。
「観光するだけなのか、体験を通じて地域の人と触れ合うのかでは、持ち帰っていただくものが全く違います。稲刈りなどの農業体験や、朝5時からハイキングをして朝食を食べるイベント、伝統文化を味わえる金継ぎ作業といった、体験する場を提供したいんです。」
丹波を何もないまちだと思っている人も、何度も足を運んでいる人も、まちの新しい楽しみ方に気づけるような関わり方をデザインしたいと語ります。
「移住定住相談を受ける立場だからこそ手にできる情報やつながりは、私たちの取組だけでなく、私たち自身の暮らしも確実に豊かなものにしてくれています。そんな情報やつながりが、私たちの取組や暮らしを通して周囲の人たちにシェアされ、再び私たちの元へ戻り、さらに深まったものが次の人へ届いています。かつて移住相談を受けてくれた人の立場に私が今立っているように、Beへ相談に来ていた人たちが、移住体験者を受け入れる側になってくれるなど、いい循環が少しずつ生まれ始めているんです。」

田舎だからと諦めず、自分がやりたいことにチャレンジしている人や、暮らしを楽しんでいる人の多さと、そんな人たちを受け入れる懐の深さが、丹波の魅力の一つと話す中川さん。
「丹波は、挑戦したいことや楽しめることの余白サイズが大きいまち。まだまだ可能性を感じています。」 まちが秘めた可能性と移住者がもたらす新しい風とを引き合わせ、住み継がれるまちづくりに挑み続けます。

移住相談では移住希望者にとって必要な情報を届けられるよう対話を大事にしている
イベントや取材では丹波人Tシャツ第二弾(通称「ちゃったT」)を着て丹波をアピール
デザインとしてあしらわれているのは丹波地域の方言「ちゃった(CHATTA)」

POWER WORD

Be the change that you wish to see in the world.
~世の中を変えたいのなら、あなた自身が変革そのものになりなさい。

「Be」という社名の由来にもなっている、マハトマ・ガンジーが言ったとされる言葉です。 まちづくりに関わる上で、何をすべきか考えていた時、オフィスとして古民家物件を譲り受けたことが、ひとつの転機になったと話す中川さん。リノベーションに始まりイベントや体験事業などの拠点として、移住生活の楽しさを体現する場を持ったことで明確になった、まちづくりに取り組む自らの在り方を語っていただきました。

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この記事を書いた⼈
内橋麻衣子